「高級感」をオーダーされたらどうする?
デザイナーなら一度は「高級感のあるデザイン」というのを考えたことがあると思う。
あまり具体例は出せないのだけど、高級感を出してほしいというオーダーは本当に多い。
できるだけ高く売りたい、高く見せたいと思うのが作り手の当然の心理であるから、
言わなくてもほとんどすべての商品デザインをする際に要求されていると思っていい。
高級感という言葉は日常的によく使う言葉だけれど、よく考えてみればかなり謎な言葉である。
高級というのは単純にとらえれば値段が高いという意味だが、大抵の場合は金目感とか、ラグジュアリーな雰囲気にして欲しいと言っているわけではない。
また、本当に高価なつくりや素材にするということでもない。
要は百貨店で売るものなのにホームセンターで売っている同種の商品と競合しては困る
ので、それなりに箔がつくようにして欲しいということだ。
もう少しそれらしい言い方をするなら、価格相応感といったところだろう。
この価格相応感というのが厄介なのだ。
デザインはある意味、いかにお金の価値観を超越するかが勝負だったりする。
対象のユーザーがいて、それに向けてベストなデザインを施すという考え方からすれば、例えばクルマの車格やグレードの違いについても、それぞれに別の対象ユーザーがいて、それに合ったデザインをするべきである。
そこにあるのはユーザーの価値観の違いであって、予算の違いではない。
単に松竹梅を揃えて、安っぽいデザイン、普通のデザイン、高そうなデザインというようなことはあり得ないのである。
だから、対象のユーザーはどんな価値観をもっているかをとらえ、彼らにとっての高級とは何かを考えるべきだ。
価値観によって、大きいから高級だ、マグネシウム製だから高級だ、画面以外なにもないから高級だ、という論理が成り立つ。
こうやってオーダーされた言葉を咀嚼することは単にアイディアを出すためだけにやるのではない。
もっと重要なのは、クライアント自身がこれから開発しようとしている商品について理解を深めることができるという点にある。
「高級」というラベリングは使いやすくて便利な反面、本質を覆い隠して思考を停止させてしまう効果もある。
こういう場面に直面すると、言葉という表現手段が万能ではないことに気づかされる。